ザリガニの鳴くところ 感想

「ザリガニの鳴くところ」を読んだのでその感想.

まず物語全体を通して感じたことだが,情景描写が美しい.ノースカロライナの湿地を舞台としているのでその沼地に生息する鳥や鹿などの動物,生い茂る植物,そして移り変わる季節をこれでもかというくらい具体的に描いている.これは著者が沼地の研究者だからなし得ることなのかと思う.

物語の内容自体はカイヤが家族から捨てられ一人で孤独に生きていく様を描く重めな内容になっているが,この情景描写のおかげでなんとも言えない清廉さを感じ,最後まで読むのが辛くなるということはなかった.

肝心の内容だが,まあ登場人物がことごとくクズい.一見善人に見えるテイトやジョディも,カイヤを見捨てた後にひょこひょこと現れ自分のエゴを押し付けているように見えてしまい,下手するとチェイスや他の村人たちよりもたちが悪い.まあ本来人間とは聖人君子ではないので,これくらい汚い部分があった方が人間味はあるのかなと思ったけど,最後の最後までカイヤは救われなかったなあという印象.唯一カイヤを人間として尊重していたジャンピンは死んでしまったしね・・・

結局カイヤは業を背負って生涯を閉じたわけだし,まあハッピーエンドとは言い難いのかな.

総じて,人間にとっての他者の存在の大きさを改めて実感した本作でした.